第42章 追憶のひと
「今朝、この船と合流したという海賊は、そなたたちのことだったか。運命とは数奇なものじゃのぅ。」
相変わらず、外見にそぐわない古めかしい喋り方をする。
モモとて、あの日たまたま出くわしただけの女性と、こうして再会するとは思わなかった。
「あなたも麦わらの一味なの?」
あまり海賊らしからぬ雰囲気を持っているが、この船にいるということは、彼女も海賊なのだろうか。
モモの疑問を受けたサクヤは、ゆっくりと首を横に振った。
「いや、私は海賊ではない。縁あって、この船に乗り合わせただけだ。セイレーン、そなたはあれからずっと、彼らと海賊をしていたのか?」
「……!」
ドキリと胸が跳ねた。
てっきり彼女は自分のことをそれほど知らないと思っていたのに、あの日、モモが正式に海賊となったことを知っている。
「…わたしの名前はモモよ。セイレーンと呼ばないで。」
名前を知らないのだから仕方がないが、ホワイトリストのリストネームで呼ばれると、自分がそれしか価値のないように感じられて、いい気持ちはしない。
「そうか、それはすまなかった。私はサクヤ。ホワイトリストで言えば、付喪姫と呼ばれておる。」
清々しいほどあっさりと詫びたサクヤは、自分のリストネームを明かしてくれた。
「付喪姫…。サクヤ、あなたはどうしてホワイトリストに?」
ホワイトリストには、ただの人間ではなく、政府にとって利用価値のある者だけが取り上げられる。
モモでいう、歌の力のように。
「我が一族は代々物づくりの才があっての。そこに政府は目を付けたのだろう。」
サクヤたち付喪の一族は、物を作らせれば天下一品なのだ。
「かくいう私も、鍛冶師をしておる。」
「鍛冶師…!」
鍛冶師とは、鉄を鍛えて槍や刀を作るアレか。
モモのイメージでは、頑固なオヤジさんの生業という感じで、とてもサクヤの雰囲気とはそぐわない。
(本当は、それだけではないがの。)
感心したような表情を向けるモモに笑みを向けながら、サクヤは内心呟いた。
けれど、自分のすべてを話すことはしない。
誰でも秘密のひとつやふたつ、持っているものだ。
(セイレーン、そなたもそうであろう?)
誰にも話せない心の内が、きっと彼女にもあるはずだ。