第42章 追憶のひと
ガチャ。
モモが出て行ったすぐあとに、医務室のドアが開かれた。
回転椅子をくるりと回し、チョッパーは振り向く。
しかし、そこに立っていたのは先ほど目覚めたばかりの友人ではなかった。
「なんだ、ローか。」
どうやらルフィとの話は終わったらしい。
すぐにこちらにやってくるところを見ると、よほどモモが心配だったことがわかる。
「…アイツは?」
「ついさっき起きて、上にいったよ。」
「容態は?」
次々と投げかけられる質問に、チョッパーは少し目を丸くした。
モモはただ、ショックで気を失っただけだ。
病気でもなければ、ケガもしていない。
それなのに、ローがこうも心配することが意外だった。
「起きぬけは少しぼーっとしてたけど、顔色もいいし、脈拍も問題なかったよ。」
少し長く眠っていたのは、疲れが溜まっていたせいだろう。
聞けば、今朝は夜通し見張り番をしていたという。
「そうか。」
安心したのか、ローの表情が僅かに緩む。
「ずいぶん心配するんだな。」
チョッパーとしては思ったことをそのまま口にしただけなのだが、ローはなにを思ってかムッと眉を寄せた。
なにか余計なことを言ってしまっただろうか? と首を傾げた時、ローがぽつりと呟いた。
「……わからねェ。」
「え?」
「…女なんか船に乗せたことがない。だから、わからねェ。」
そもそも、女を気遣ったことがない。
もちろん、女が男より肉体的に弱いことはわかっている。
けれど、それはいったいどのくらい?
重い荷物を持たせれば、その華奢な腕を簡単に痛めてしまうのではないか。
転んでしまえば、白い肌には痛々しい痣がつくのではないか。
今までまったく女に興味がなかったから、その程度がわからない。
だからつい、心配しすぎて過保護になってしまう。
現に、今朝モモが気を失った時など、心臓が止まるかと思った。
コハクはブルックに驚いただけだと笑ったが、あまりにも目覚めない彼女に、ローは気が気じゃなかった。
ルフィとの話し合いにも、なかなか集中できなかったほどだ。
自分の心臓は、彼女の中にあるのではないか?
そんな錯覚すら起こすほど。
もし、彼女を失ったならば、自分はいったいどうなってしまうのだろう。
想像することすら、恐ろしかった。