第42章 追憶のひと
「もう大丈夫よ。びっくりしただけで、身体はなんともないから。」
頭痛も止み、すっかり調子を取り戻した。
そのことを確認して、チョッパーもうんうんと頷く。
「ところでモモ、お前、ローの船に乗ってたんだな。」
「ん…、そうなの。…最近になってだけどね。」
チョッパーと会ったのは6年前。
あの時のモモは、まだ本当の意味でハートの海賊団の一員だった。
そのことをチョッパーは知らないはずだが、じわりと手のひらに汗を掻く。
「え、最近なのか? じゃあ、あの時の仲間は?」
「今はもう一緒じゃないわ。わたしはコハクを産む時に一度、海賊を辞めたから。」
半分は嘘で、半分は本当。
けれど、真実を知らないチョッパーがその嘘に気づくことはなかった。
「そうなのか。…お前もいろいろあったんだな。」
「まあ、ね。」
“いろいろ”じゃ片付けられないほど、長い6年間だった。
嘘を吐くのはいつだって心を痛めるけど、自分で決めたことなのだから仕方がない。
「あ、他のみんなはどうしてるのかしら。」
あれから半日も経っているとなれば、当然再会の挨拶は終わった頃なのだろう。
「んー、適当にその辺にいるだろうけど…。あ、ローはルフィと今後のことについて話してたかな。」
「そう。じゃあ、邪魔するわけにはいかないわね。」
昔の夢を見たからか、今すぐ彼の顔が見たかったが、そんなワガママを言っていられない。
「病人じゃないんだし、わたしも上に出るわ。ありがとう、チョッパー。」
「おう! おれはまだ少しやることがあるから、またあとでな!」
そろりと立ち上がり、占領してしまったベッドのシーツを綺麗に直してから、モモは医務室をあとにした。