第42章 追憶のひと
瞼を開けた。
「……う。」
思いのほか部屋が明るくて、モモは顔をしかめた。
(ここ…、どこ…?)
見慣れない天井に、薬品の匂い。
モモの家ではない。
「あ、モモ! 目が覚めたか?」
傍に駆け寄ってくる足音はやけに軽く、不思議に思って視線を向けた。
「気分はどうだ? って言っても、頭とかぶつけたわけじゃないし、大丈夫だろうけど…。」
椅子の上に乗っかり、ひょこりと顔を出した人物は、人物と言ってもいいのか悩ましいくらい人外な姿をしている。
しかし、その愛くるしい姿にモモが驚くことはない。
彼のことはすでに知っているから。
「……チョッパー。」
名前を読んで身体を起こすと、少し頭痛がした。
どうやら長いこと眠ってしまったようだ。
「覚えてるか? お前、ブルックに驚いて気を失っちゃったんだ。」
「ブルック…。」
そういえば、最後にそんな名前のクルーに自己紹介された気がする。
確か、ずいぶんと細身の…。
「……!」
ブルックの姿を思い出したモモは、たちまち青くなって身震いをした。
「あッ、違うからな! ブルックはああ見えても幽霊じゃないんだぞ!」
モモが怯え出す前にと、チョッパーは急いで説明する。
なんでも彼は“ヨミヨミの実”なる悪魔の実を食べて、生ける屍と化しているらしい。
それってもはやオバケなのでは? と疑問を感じたが、ブルックは食事も摂れば用も足すとのことなので、生きてる人間なのだと無理やり納得することにした。
「でも、まさかモモがあんなに怖がりだとは思わなかったぞ。」
「…誰にだって苦手なものくらいあるわ。」
知られたくない弱点がバレて、モモは恥ずかしさから唇を尖らせる。
「うん、まあ、おれもオバケは嫌いだ。」
モモの恥ずかしさを知ってか知らずか、チョッパーは同意しながらモモの額に手を当てる。
「うん、大丈夫みたいだな。ショックで気絶した割には、ずいぶん長いこと目を覚まさないから、ちょっと心配したぞ。」
言われて初めて時計に目をやると、時刻はすでに夕方を指している。
かれこれ半日近く眠っていたことに驚いた。
それは、懐かしい夢を見ていたせいだろうか…。