第42章 追憶のひと
結局、わたしはあなたになにひとつ返せなかった。
その後、メルディアは全土で放映されたエースの最期をダイヤルに記録して手に入れてくれた。
しかし、モモがその映像を見ることはなかった。
政府にいいようにねじ曲げられた映像など、見たくはなかったから。
エースがなにを想って、どんな気持ちで最期の時を迎えたかなんて、そんなものからはとてもわからないだろう。
ねえ、もし。
もしわたしが、あの日、あなたの手を取っていたら、未来は変わったのかな?
わたしの歌は、あなたを助けることができたのかな?
あれから満月の夜になると、そんな疑問ばかりが押し寄せる。
過去に戻ることはできないけど、もし奇跡が起こせるのなら…。
無理とわかっていながら、ついそんなことばかりを考えてしまうのだ。
“お前、俺の弟に似てるんだよなぁ”
いつか彼が、わたしに投げかけた言葉。
その言葉を思い出したのは、それから数日後の新聞を見たときだ。
頂上戦争で生死不明となっていたモンキー・D・ルフィは、再び海軍本部へ現れた。
軍艦を奪った彼は、そのままマリンフォードを一周。
水葬の礼だ。
その後、広場へと乗り込んだルフィは、鐘の音を16回鳴らしたあとに、花束を捧げて黙祷したという。
彼のシンボルである麦わら帽子を胸に抱き、目を瞑り祈りを捧げるその姿は、とても印象的だった。
……会ってみたい。
会って、話がしたい。
その新聞をコハクと一緒に見ながら、モモはそんなふうに思ったのだ。
できることなら、エースの自慢の弟であるあなたから、彼の最期を聞きたい。
モンキー・D・ルフィ。
いつか、あなたに会うことができたなら…。