第42章 追憶のひと
ガチャン!
「あれ、メルディアだ! 遊びにきたのか?」
玄関のドアが開く音と共に、外へ出ていたコハクが戻ってきた。
「え、ええ…。久しぶりね、元気にしてた?」
メルディアの笑顔は多少ぎこちないものになったが、コハクは特に気にならなかったようだ。
「うん、元気だ! いつまでいられる? このあいだエースも来たけど、すぐに行っちまったから。」
そんな無邪気な言葉にギクリと反応したのは、メルディアではなくモモだった。
コハクに、どう伝えたらいい?
言わずに隠したらいいのでは? という考えが一瞬頭をよぎったが、すぐにそれを否定する。
コハクには、父親のことを隠している。
これ以上、彼に嘘や隠し事はしないと決めているのだ。
伝えなきゃいけない。
例えコハクが傷つくと知っていても、大事なことだからこそ、伝えなきゃいけない。
それは、メルディアでも他の誰かでもなく、モモがやらねばならぬこと。
「……コハク。」
モモは覚悟を決めて跪き、幼い肩に手をかけた。
隣ではメルディアが「まさか言うのか?」と目を剥いている。
確かにコハクはまだ幼いから、もう少し時間が経ってから伝えてもいいかもしれない。
でも、後々エースの死を知ったコハクはどう思うだろう。
もし自分なら、どうしてその時教えてくれなかったのかと相手を責めると思う。
それは、きっとコハクも同じはず。
「コハク…。」
「なに…?」
モモのただならぬ様子を感じてか、コハクもぐっと真剣な面もちとなる。
「エースが……」
瞬間、恐怖を感じた。
これを口にしてしまったら、それが“事実”となってしまう恐怖。
無意識のうちに身体が震える。
それでも、言わなくては…。
「エースが、死んでしまったんですって。」