第42章 追憶のひと
ガシャン…!
「あ…ッ」
それから数ヶ月後の出来事だった。
テーブルに置いていた桜柄のカップが、風もないのに落下して割れてしまった。
「やだ…。」
端っこに置きすぎていたのか、慌てて駆け寄るみるが、無惨に割れたカップは接着剤を用いても修復不可能だった。
「ああ、どうしよう。」
エースに貰ったお気に入りのカップ。
大事に使っていたはずなのに、こんな形で失うことになり、彼に申し訳ない。
「次に会ったら謝りましょう。」
きっとエースは笑って許してくれるだろうけど。
どうしようもなく沈む気持ちを宥めながら、モモはカップの破片を片付けた。
この瞬間、彼の身になにが起きているかなど、知りもせずに…。
数日後、モモの数少ない友達であるメルディアが島を訪ねてきた。
頻繁に会いに来てくれるメルディアだが、この日ばかりは様子が違っていた。
「モモッ、大変よ!」
美しい巻き髪を振り乱しながら駆けてきた彼女は、ドアを蹴破る勢いで開けて そう叫んだ。
「メル? ど、どうしたの…?」
尋常ではない友人の様子に、ただならぬ予感がした。
「モモ…! 落ち着いて聞いてちょうだい。」
落ち着きを失っているのは、明らかにメルディアの方だというのに、彼女はモモの両肩を掴むと、真剣な眼差しでそう言った。
「なにがあったの?」
まったく予想ができなくて、モモにはそう聞き返すしかできなかった。
「火拳のエースが死んだわ。」
瞬間、頭の中が真っ白になった。
今、メルディアはなにを言っただろうか。
エースが、死んだ…?
「え……?」
そう聞き返すことにさえ、しばらく時間が掛かったほど。
「…3日前のことよ。火拳のエースは、海軍本部であるマリンフォードで…処刑されたわ。」
エースが、処刑…?
メルディアの言葉が、こだまするようにひたすら頭に響いた。
そんなはずはない。
だって、だって、彼は約束したもの。
『またな、モモ!』
だって、エースは…。
「うそ……。」
お願い、誰か、そう言って。