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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第42章 追憶のひと




「エース、本当にもう行くのかよ。」

不満げな表情を隠しもせず眉を寄せたコハクの頭を、エースが撫でた。

「悪ぃな、コハク。またすぐに来てやるから、そんな顔をすんな。」

「…ぜったいだぞ。」

だだをこねることもせず、精いっぱいのワガママを言うコハクに、ニカリと笑ってみせた。

「おう、絶対だ。それまで母ちゃんのこと、しっかり守れよ!」

「あったり前だろ!」

ようやく笑顔をみせたコハクに別れを告げると、今度はモモに向き直る。

「またな、モモ! 今度はゆっくりしたいもんだぜ。」

「ええ、今度はゆっくり遊びに来て。」

次回はきっと、その約束が果たせるだろう。
エースは次の航海で目的を達成できるはずだから。

「でも覚悟しとけよ。次はきっと、連れてくからな。」

「……。」

ああ、また次回もあの押し問答が続くのか。
内心辟易しながらも、曖昧に笑った。

悪魔の能力を活かした特殊な船を片足で蹴り、彼は軽快に飛び乗った。

「またな! モモ、コハク!」

太陽の光が燦々と降りそそぐ中、その光に負けないくらいの笑顔で、エースは旅立っていった。

「うん、またね!」

大きく手を振りながら、モモも別れを告げた。

きっと、またすぐに来るだろう。
だから、たいして別れを惜しむこともなく。



『モモ、俺と一緒に行こう』


エースは、モモに何度も手を差しのべてくれた。

でも、モモはその手を取ることができなかった。

その理由は、己への戒めと、ほんの少し恐ろしかったから。

海へ出るのは、少し怖い。

あの人がいる海に…。


だけど…。


ねえ、もしこの時、わたしがその手を取っていたのなら、あなたの未来は変わっていたのかな?

もしあの日、あの瞬間に、わたしが傍にいたのなら、なにかできたのかな?

もしも過去に戻ることができるのなら、わたしはこの日、この時に戻りたい。


どうしてわたしは、当たり前に未来があるのだと信じていたのだろう。


『またな、モモ!』


“また”は絶対じゃなかったのに。


『次はきっと、連れてくからな』


“次”は訪れることはなかった。

もう、永遠に……。



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