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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第42章 追憶のひと




「え……?」

エースの問いかけに、モモは目を見開いて驚いた。
しかしモモ自身、自分が驚いたことに驚いたようだ。

そして、ゆっくりと首を傾げる。

「待ってるって、なにを…?」

「……。」

その問いに、エースは答えなかった。

はぐらかしているのか、それとも本当に見当がつかないのかはわからない。
けれど、彼女の性格からして、きっと後者なのだろう。

モモは、待っているのだ。

自ら記憶を消しておきながら、この決別の地で、無意識のうちにずっと。

あの男を。


ここでそれを指摘したら、モモはどんな反応をするだろうか。

でも、教えない。
教えてやらない。

教えたくない。

(そっか、お前、待ってるんだな…。)

エースの胸に、今まで感じたことのない気持ちが生まれた。

それは、失望でも諦めでもない。
もっと違う、別の感情だ。

悔しいような、もどかしいような。
なんともいえない感情。

この感情をなんと呼ぶか、エースは知らない。
けれど、今はこの手を引くしかないってことだけは理解できた。

悔しいけれど、モモにとって、自分はあの男に負けているのだ。
今も、昔も…。

でも、いつかきっと…。


「…わかった。」

唐突に差し出した手を下ろしたエースを、モモは訝しげに見た。

「今回は諦めるよ。」

エースがいったい、なにがわかって、なんで諦めたのかはわからない。
けれど、モモもその理由を尋ねることなく、頷いた。

「でも、諦めるのは今回だけだ。次は絶対連れてくからな。」

「エース。何度言われても、わたしは…」

「おっと!」

この押し問答が次も続くのかと心底困り果てたモモの言葉を遮った。

「モモ、お前にゃお前の理由があるだろうが、俺がなにをするかは俺の自由のはずだぜ?」

「それはまあ、そうかもしれないけど…。」

モモが島に留まる選択をしたように、エースにも選択する自由がある。

それはわかっているけど、モモにはエースがなぜ、そうまでして外へ連れ出そうとしているかがわからなかった。

だってわたしは今、幸せなのに。

そう信じていたから…。



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