第42章 追憶のひと
「…別に今すぐとは言わねぇさ。俺にも片付けなきゃならねぇことがある。」
黒ひげ…ティーチの居場所は突き止めた。
この島を出たら、早速 奴のもとへ向かうつもりでいる。
ティーチはそれほど戦闘力に長けた男ではなかったが、悪魔の能力を得た今では、それもどうかわからない。
そんな危ないところに、モモたちを連れて行くことはできなかった。
「だから、ソレが片付いたら……」
「エース。」
エースの言葉を遮るように、モモは彼の名前を呼んだ。
「エースの気持ち本当に嬉しい。ありがとう。…でもわたし、行かないわ。」
行けないんじゃない、行かない。
「コハクには悪いことをしてると思ってる。あの子がもう少し大きくなったら、外へ旅立つのもいいと思うの。けど、わたしは行かない。」
例えこの島でひとりになったとしても、ずっとここにいる。
「エース。わたし、もう海へ出るつもりはないわ。ここでこうしているだけで、十分なの。」
正直、冒険に憧れはある。
かつて仲間たちと共に生きた海は、今でも忘れられないほど色鮮やかなものだから。
でも、その仲間たちから有無を言わさず“大切なもの”を奪ったのは誰だ。
「一緒には…、行かない。」
だって、わたしはわたしを許せないもの。
あの素晴らしい日々は、夢で味わうだけで、十分なのだ。
どうして、と思った。
モモはいずれコハクを外に出すと言う。
それなのに、自らはこの寂れた島に残ると、そう言うのだ。
彼女を縛る鎖はセイレーンで、それから自分とコハクを守るために、ここに閉じこもっているのではないのか。
それならば、その不安さえ取り除けば、彼女が海へ出られると思った自分は安易すぎたのだろうか。
頑なにエースの手を取らない彼女の指先が、無意識のうちに左薬指に光るものに滑る。
「……!」
理解した。
唐突に。
彼女が、この島を出ないという理由を。
「お前、待ってんのか…?」