第42章 追憶のひと
エースはこの頃、所属する白ひげ海賊団の身内で不祥事が起こり、犯人を追っていた。
なんでも“仲間殺し”があったらしい。
犯人はエースの元部下で、隊長であるエースは責任をとって犯人に然るべき罰を与えねばならないそうだ。
仲間殺しなんて、ゾッとする。
かつてモモにも仲間がいたが、彼らが互いを害すことなど、天地がひっくり返ったってあり得ないだろう。
そんな行いができてしまう犯人。
そんな狂気な人物を追っているエースが心配だ。
犯人の足取りを掴めた大事な時期だというのに、エースはこうして自分たちに会いに来てくれる。
コハクを鍛え、モモを気遣い、その優しさには感謝してもしきれない。
差し伸べてくれる手も、モモにとっては贅沢すぎるものだ。
自分はそんな、優しさを向けられるような存在ではない。
彼の手を取れる資格なんてない。
そうはわかっていながらも、その優しさが痛いほど嬉しかった。
わたしはエースに、なにが返せるだろう。
彼の優しさに、どうやって応えたらいい…?
答えは今も出せないまま、こうして悩み続けている。
もうすぐ正午だ。
先を急ぐ彼は、きっと昼食を食べていかないだろう。
モモはエースのためにお弁当を作り、風呂敷に包む。
そしてまだエースとコハクが外から戻って来ないことを見て、薬草畑に行こうと考えた。
品種改良をした薬草が、そろそろ収穫時なのだ。
薬効が高く外傷によく効くので、きっと彼の役に立つ。
2人が帰ってきてしまう前に…と、モモは足早に家を出た。
薬草畑は家から少しした丘の上にある。
ここから見る風景は、見晴らしがよくて海を一望できるのがお気に入りだ。
「今日はよく晴れるわね。」
風が弱くまっさらに晴れた青空には、雲ひとつない。
けれど、まだ昼間だというのに、空には白い月がぽっかりと浮かんでいた。
「今宵は満月なのね。」
そういえば、エースと初めて会った日も、満月が関係していた。
かの地に生きた世界樹の毒には、満月の夜に採取できるヒスイの蜜だけが救いだったから。
あれからもう、何年の時が経ったのだろう。
ザッ、ザッ…。
出会いの瞬間に想いを馳せかけた時、後ろから誰かの足音が聞こえた。