第42章 追憶のひと
翌朝、目を覚ましたモモがリビングに降りると、エースはテーブルの上に突っ伏したまま眠っていた。
空になった酒瓶が転がっているところを見ると、どうやら酔ってそのまま眠ってしまったようだ。
きっと、昨夜もすでに酔っていたに違いない。
そう決めつけて階下に降り、朝食の準備を始めた。
とれたてのナスやズッキーニを大きめに切り、香草と共にトマトと煮てラタトゥイユを作る。
数ある料理の中でも、モモはやはり野菜料理が得意だ。
「……ぅうーん。」
美味しそうな香りが部屋に広がり、鼻をひくつかせたエースが目を覚ました。
「起きたの、エース。もうすぐ朝ゴハンができるけど、食べられそう?」
酒瓶の本数からみて、そうとうな量を飲んだのだろう。
お酒を飲まないモモにはわからないが、二日酔いとはなかなか厄介なものらしい。
「んぁ、モモ…? いけね、俺、昨日どうしたんだっけ。」
「飲みすぎて寝ちゃったんでしょ。」
軽く頭を掻くエースに、モモは二日酔いに効果がある薬茶を淹れて差し出す。
あくまで、昨夜の話には触れない。
薬茶を一気に煽ったエースが「あー…」と苦そうに呻く。
「やっぱ、お前の薬は効くな。頭がスッキリしてきた。」
「ありがとう。なんならまた持って行く?」
「そりゃァ、助かるな。」
エースと別れる時には、お礼の意味を込めていつもなにかしらのものを持たせるのだが、やはり薬が1番役に立つ。
特に二日酔いのための薬茶はエースの仲間内でもすこぶる好評らしく、持って帰ると争奪戦が始まるのだとか。
二日酔いにならない程度に飲めばいいのに、海賊というのは加減を知らないらしい。
「なァ、モモ。昨日の話だけどよ…。」
「!」
唐突に振られた話に、モモの肩が跳ねた。
やはり、覚えていたのか。
(でも、大丈夫……。)
今は、昨日のわたしとは違う。
昨夜はどうかしていたのだ。
今なら、エースになにを言われても、笑って応えられるだろう。
さあ、なんでも言ってみてよ。
モモは挑むように視線を絡ませた。