第42章 追憶のひと
しかし、エースはモモの睨みなどまったく気にもとめず、「思い出した!」とミートパイを口に含みながら行儀悪く立ち上がった。
「そうそう! お前にコレを見せてやろうと思ってたんだよ。」
そう言って土産袋に手を突っ込み、引っ張り出したものは1枚の手配書。
そこに写る青年は、海賊の手配写真とは思えないほど満面の笑みを浮かべている。
(もっと海賊らしい写真はなかったのかしら…。)
この写真を見るたび、そんな感想を覚えてしまうのは、たぶんモモだけではないだろう。
「これ、なんだかわかるか!?」
少し興奮気味に話すエースの瞳は、やけに嬉しそうだ。
「…あなたの弟くんの手配書でしょう?」
モモがこの手配書を見るのは初めてではない。
彼の弟が“麦わらのルフィ”という贈り名で世間に知れ渡った時、今のようにここへ持ってきたのだ。
「バーカ、額を見ろよ、額!」
なぜかバカ呼ばわりされながらも しきりに懸賞額を指し示されるものだから、しぶしぶそちらに目を向ける。
弟の懸賞額は、3000万ベリーから1億ベリーへと跳ね上がっていたのだ。
「ルフィもついに億越えだぜ。さすが俺の弟、出世が早ぇ!」
モモがエースと出会ってから、彼自身の懸賞額が何度も上がっている。
その結果、エースの懸賞額はルフィの何倍もの額になっているのだが、本人は自分の懸賞額には興味がないらしい。
そのくせルフィの懸賞額にはこんなに破顔して喜ぶのだから、弟バカと言わざるをえないだろう。
「この前、ひさしぶりにルフィと会ったんだ。」
「あら、そうなの。」
エースは自分が海賊になってから一度もルフィに会っていないと言っていたから、顔を合わせたのはかれこれ3年ぶりだろう。
「変わってた?」
「いんや、全然。相変わらず無茶ばかりしやがる。そういうところは、ほんと、お前とそっくりなんだよなァ。」
しみじみと言われたけど、聞き捨てならなくて唇を尖らせる。
「わたしのどこが無茶ばかりだって言うのよ。」
むしろ無茶ばかりの修行をしているのは、エースたちの方じゃないか。