第42章 追憶のひと
痩せぎすな人を“骨と皮だけ”と例えたりするが、この男はそんなもんじゃなかった。
むしろ“骨と髪だけ”と言った方が正しい。
つまり、その男は見事な白骨と見事なアフロだけの姿だった。
…ちなみに、男かどうかも判別不能である。
「ヨホホホ、私、死んで骨だけブルックと申します!」
「は!?」
意味がわからない。
ベポと会った時も、世界には喋るクマがいるのか…と驚いたものだが、上には上がいる。
彼は生身ですらない。
この船には、しゃべる骸骨が乗っているのだ。
もはや生きているのか死んでいるかすら怪しい。
(オバケって、本当にいるんだな…。)
ブルックをオバケと決めつけ納得しようとした時、とある事実を思い出してハッとした。
暗い夜の森も、気味の悪い害虫たちも恐れないモモだけど、実は彼女には恐れてやまないものがひとつだけある。
例えば、メルディアが悪ふざけで持ってきた本の中にソレの類のものが紛れていたりすると、読んでしまったモモは大変なことになった。
顔色は残念なくらい真っ青になり、日が暮れると夜風が窓を叩く音にさえビクついた。
しまいには就寝時に枕を持ってコハクの部屋を訪れ、涙目で「一緒に寝てくれ」と懇願する。
そのどっちが子供かわからない行動に呆れながらも、この時ばかりはメルディアを恨んだものだ。
それほど、モモはソレが嫌いだった。
だから、モモがこちらに近寄ってくる気配を感じて大いに焦る。
「どうしたの、コハク。」
「母さん、来ちゃダメだ…!」
咄嗟に叫んだけれど、こちらの想いも虚しく、モモはすぐそこまでやってきてしまっていた。
「え……?」
なにを注意されたのかわからず戸惑うモモに、今1番傍に寄って欲しくない人物が近づいた。
「おや、お嬢さん、お美しーィ! …パンツ見せてもらってもよろしいですか?」
なんてことを聞きやがる! とブン殴ってやりたかったけど、それよりもモモの様子が気になった。
目を見開いたまま、微動だにしない。
「か、母さん…?」
「……。」
声を掛けても反応はない。
まさかと思って、目の前で手を振ってみた。
「あ、気絶してる…。」
目を開けたまま昇天している彼女は、世界で1番、オバケが嫌いだ。