第42章 追憶のひと
「なんなんだよ、お前ら! いい加減、離せ…ッ」
コハクの言葉を無視したやり取りに苛立ちが募り、ルフィの腕にガブリと噛みついた。
「あいてッ!」
思いがけない反撃に腕が緩み、その隙を逃さずスルリと抜け出す。
「なんだよトラ男、痛ぇじゃんか。」
くっきりと歯形のついた二の腕をさすり、ルフィが唇を尖らせる。
「だから、誰だよトラ男って…。」
悪いが、そんなセンスのない名前を持ったことはない。
「誰って…--」
「……麦わら屋。」
「お前のことだろ」と言いかけた言葉は、横から声を掛けられたことによって遮られた。
「なぜお前たちが こんな海域にいる。」
スタスタとこちらに近寄ってきたのは、紛れもなく“死の外科医”トラファルガー・ローその人だ。
「あれッ、トラ男!?」
ローと思われる人物がさらに増え、ルフィはキョロキョロと2人を見比べ始めた。
「なんでトラ男が2人いるんだ?」
「……あ?」
意味不明なことを言われ、眉をしかめたのはローの方だった。
すると、下からぼそりと呟く声がある。
「トラ男って、ローのことなのかよ…。」
見るとコハクが、「ダセェ名前…」と言わんばかりの表情でこちらを見ている。
「見ろよトラ男、ここに小っせぇトラ男がいるんだ!」
「ほら!」と再び捕まえようとするルフィの腕を素早くかわし、やっと事態を理解した。
どうやら自分は、ローが小さくなったと勘違いされているらしい。
「フザけんなよッ、オレのどこがローなんだ!」
まったく冗談じゃない。
怒りを込めてギロリと睨み上げるけど、今度はロビンに冷静に言われた。
「…ますますトラ男くんにしか見えないわ。もしかしてあなたの隠し子?」
それを聞いた瞬間、ローが不快そうに眉間にシワを寄せたものだから、ますます苛立つ。
「んなわけねーだろ。ローが父親だなんて、絶対ごめんだね。」
苛立ちのままに言い放つと、なぜかローも苛立ったようにこちらを睨んだ。
(…なんだよ。)
無言のまま、睨み合う。
「あら…。それにしては、あなたたち似すぎているんじゃない?」
もう何度目かの指摘に、ローとコハクは「全然似てねェ!」と仲良く声を揃えた。