第42章 追憶のひと
コハクがハートの海賊団以外の船に乗り込むのは、人生初めてのことだ。
好奇心と舐められたくないとの思いから、ベポに続いて2番目に乗り込んだ。
「お、クマ~! 元気になって良かったなァ!」
真っ先に出迎えてくれたのは、赤いシャツにに麦わら帽子を被った青年。
まるで、ひさしぶりに友達と再会したかのようにベポに飛びついている。
「だから、おれはクマじゃなくてベポだよ! 何度言ったらわかるんだ、悲しいぞ おれは!」
その馴れ馴れしさとは裏腹に、青年はベポの名を覚えていないらしい。
「そうだっけ?」と首を傾げている。
麦わらの一味というからには、まさかコイツが船長なのか?
同じ船長なのに、ローとはまるで違う雰囲気を放つ彼を疑わしげに見つめる。
すると視線に気がついたのか、青年と目が合った。
「あれ、トラ男。お前、いつの間にこんな小さくなっちまったんだ。」
「…は?」
トラ男?
誰のことかわからなくて反応に困る。
しかし、こちらの戸惑いなどよそに、彼はコハクをガシリと担ぎ上げた。
「おい、みんな~! 大変だ、トラ男が小さくなっちまった!」
「うわッ、離せよコノヤロー!」
腹が立って脇腹に拳を一発当ててやったが、ビクともしない。
そうこうしているうちに、彼の仲間たちが寄ってきた。
「あら、ほんと…。トラ男くん、少し見ない間にずいぶん小さくなったのね。」
しげしげとコハクを見て声をかけてきたのは、知性漂う黒髪の美人だった。
(まぁ、母さんの方が美人だな。)
誰になにを言われているわけでもないのに、対抗意識を燃やす。
「おい、ロビン。今度はトラ男が病気になっちまったのか?」
「そうね。骨と肉が徐々に溶けて、最後は液体化して消える奇病かも…。」
いやいや、ものすごい真顔でなんてことを言うのだ。
発想が怖くてドン引きした。
なるほど、海賊ってやつはどいつもこいつもマトモじゃなさそうだ。