第42章 追憶のひと
くるりとこちらを振り返ったその人は、赤茶色の猫目を優しげに和らげて微笑んだ。
「ウチのクルーがごめんね。病気みたいなもんだから、気にしないでちょうだい。」
「ナミさん、もしかして…ジェラシー?」
ナミに耳を引っ張られたサンジは、先ほどと同じようにデレッとした顔になる。
「そんなわけないでしょ!」
鬱陶しそうに頭を叩かれても、彼はなぜか幸せそうだ。
なるほど、確かに病気…。
「あなた、トラ男くんのところのクルー? 私はナミ、ここの航海士よ。」
「俺はサンジ。この船のコックだ。美しい人、どうか名前を教えてください…。」
まるで騎士のような仕草でモモの手を取ろうとするサンジをナミは横目で睨んだが、それよりも先に黒いスーツの後ろ襟を掴む手が伸びた。
グイ…!
「どわ!」
強く後ろに引かれ、中腰だったサンジは尻餅をついてしまう。
「てめぇ、ロー! なにしやがる!」
背後にいた犯人をギロリと睨むが、当のローはフンと鼻を鳴らして悪びれた様子はない。
「コイツはウチの薬剤師だ。馴れ馴れしく触れるな。」
「…ロー。」
ただの挨拶だというのにひどい振る舞いをする彼を窘め、サンジを助け起こそうと手を差しのべる。
「ごめんなさい。あの、わたしは…--」
「…モモ!?」
自己紹介の続きで名乗ろうとしたところで、思いがけず名前を呼ばれる。
しかし、呼び声はハートの海賊団のものではない。
仲間の他にモモの名前を知る者などいないはずなのに…と驚いて振り向くと、そこにいた人物にさらに驚く。
ぬいぐるみのような姿に、大きな角と青い鼻。
印象的すぎる彼のことを思い出したのは、つい昨夜のことだ。
「チョッパー…!」
あれから6年の年月が経つというのに、そこにいた彼は記憶の中の姿とほとんど変わらない。
まさか、こんなところで会うなんて…!
先ほど広いと感じたばかりの海は、やっぱり少し狭いのかもしれない。