第42章 追憶のひと
呆然と固まるモモをよそに、サンジは視線をそのままにローへと問いかける。
「おい、ロー! いつの間に、こんなお美しいレディが仲間になったんだ!」
しかし、その言葉に反応したのはローではなくモモだった。
「おうつく…レディ…!?」
軽く衝撃を受けた。
この人、今なんと言った?
とんでもないお世辞によろめいた。
今まで仲間たちに「可愛い」などとは言われても、「美しい」などと言われたことがない。
しかもレディって…。
されたことのない扱いに、思わず頬が染まった。
その恥じらうような表情に、今度はサンジが雷に撃たれたような衝撃を受けた。
「はァう…!!」
「えッ!」
胸を押さえてうずくまるサンジに慌てた。
もしや心臓に持病でもあるのか?
薬剤師の顔になったモモは、「大丈夫ですか!?」とサンジの肩に手をかけた。
しかし、モモの予想に反して、サンジはその手を恭しく取り膝をついた。
「ああ、神よ…。あなたはこの白百合の如く美しい人と出会わせてくれた! 今日という日をありがとう!」
「は……。」
なんだって?
まるで舞台のセリフのようにスラスラと発せられた言葉に、モモは照れを通り越して固まる。
(もしかして、精神的な病なのかしら…。)
だとしたら治療薬は心を落ち着かせる鎮静剤や、リラクゼーション効果のあるアロマとハーブティーもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、「ハイハイ、止めなさい!」と女性の声が割り込んできた。
「まったく、あんたはもう…! この子が困ってるでしょ!」
ベリッとサンジを引き剥がしてくれたのは、オレンジ色の髪をした女性だった。
(び、美人…!)
明るい印象のその人は、バツグンのスタイルと、それを主張する露出度の高いファッションをしている。
例えモモがそのスタイルを持っていたとしても、とてもじゃないがマネできない。
手首に装着されたログポースを見ると、どうやら彼女がこの船の航海士らしかった。
当たり前だけど、ウチの航海士とはえらく違う。
世界は広いんだなぁ…と改めて思った。