第42章 追憶のひと
ローが、ベポが、コハクが、次々とサニー号に乗り込む中、モモは足を止めた。
自らの足で他の海賊船に乗るのは、これが初めてだ。
その昔、縁あって“魔術師”バジル・ホーキンスの船に乗ったことがあるが、あれは完全に成り行きだった。
モモは海賊というものを、よくは知らない。
けれど、世間で言われるような悪党の一団ばかりではないことはとっくにわかっている。
渡り板の向こう側で、なにやら楽しげな笑い声が上がった。
意を決して、モモは未知なる海賊船へと足を進める。
「お、クマ~! 元気になって良かったなァ!」
まず飛び込んできたのは、先ほどの溌剌とした声。
目を向けると麦わら帽子を被った青年が、ベポに飛びついている。
「だから、おれはクマじゃなくてベポだよ! 何度言ったらわかるんだ、悲しいぞ おれは!」
ぷんすかと怒りながらも、ベポは嬉しそうだ。
同盟とはどんなものと思っていたけど、案外仲は良さそうだった。
ギシリと音を立てて渡り板を降りると、モモの存在に気がついたルフィの仲間が目を剥いた。
「んなあぁァァ!!」
突如発せられた雄叫びに、ビクリと身体を跳ねさせる。
驚いて声の方向を見れば、金髪の男性が驚愕に固まっていた。
(……おもしろい眉毛。)
ついそんなことを思ってしまったのは、彼が見たこともない独特な眉毛の持ち主だったから。
うっかり注視してしまったものだから、バチリと目が合う。
すると彼は「うおォォ…ッ」と地鳴りのような呻き声を上げた。
(な、なに…?)
もしかして、なにか不快な思いをさせてしまったのだろうか。
新人のくせに、挨拶をしなかったから怒りを買ってしまったのかも…。
オロオロと狼狽えるモモとは裏腹に、彼は心からの叫びを発した。
「恋はいつでもハリケーン!!」
「はぃ…?」
竜巻のようにクルクルと飛び上がる彼を見て、モモはしばし呆気にとられた。