第42章 追憶のひと
朝食を作ろうと、デッキからリビングへと続くドアを開いた。
その瞬間だった。ベポの声が響いたのは。
「…ん、あれ? キャプテン! 向こうから船が近づいてくるよ!」
航海士として天候を確認しようと、何気なく双眼鏡を覗いていたベポは、遠くから近づいてくる船影に警戒の声を上げた。
ドクロマークを船旗に掲げたこの船に、近づいてくる船などそうはいない。
海軍か、もしくは他の海賊船か。
いずれにしても敵船であることには変わりない。
先ほどの和やかな空気とは一変、ピリリと緊張感が走る。
モモもドアノブを握った手を止め、ゴクリと固唾を飲み込んだ。
(戦闘が始まるのかしら…。)
ローは強い。
だからなんの心配もいらないとは思うが、なんといっても ここは新世界。
常識では考えられないバケモノがはびこる海なのだ。
戦闘の中ではモモは足手まといにしかならない。
せいぜい人質にとられないよう、おとなしく部屋にこもることが精一杯だ。
それはコハクも同じことで、彼の手を引こうか迷う。
しかし、モモがコハクのもとへ近づく前に、ベポが「ん?」となにかに気がついたような声を上げた。
「どうした?」
「キャプテン、向こうの海賊旗が見えるよ…。」
どうやら相手は海賊らしい。
潰し合いか、それとも略奪目的か。
どちらにしても、向かってくる以上、容赦はしない。
ローは静かに臨戦態勢を取りつつ、双眼鏡を覗くベポに「どこの連中だ?」と尋ねた。
「あれは、……麦わらの一味だ!」
「--ッ!」
一瞬、空気が震えたと思った。
でもそれは、空気ではなく、単にモモの心が震えただけなのかもしれない。
『お前、俺の弟に似てるんだよな…。』
ああ、わたし…。
どうしても、あなたに会いたかったの。
麦わらのルフィ。