第42章 追憶のひと
「わたし、もう見張り番をやりたいって言うのは止めるわ。」
今朝までずっと頑なだったモモが急にそんなことを言い出したものだから、その場にいた全員がこちらに視線を向けた。
「どうしたの、モモ。見張り番、辛かった?」
確かに今日はとても冷えるから、モモがそう言い出すのも無理はないとベポは納得しかけた。
「ううん、違うの。だってほら、わたしが見張り番だと、みんなが安心して眠れないみたいだから。」
くすりと笑ってみんなを見れば、クルーたちはお互い顔を見合わせて焦りはじめた。
「違うぜ、モモ! 俺たちは別に、お前のことを信用してないわけじゃなくてだな…ッ」
「そうッス! ただ…その、気になって目が冴えちゃって…!」
シャチはともかく、ペンギンの言い訳はモモに「やっぱり信用していないのね」と思わせる発言だった。
「空気読めないこと言うんじゃねー!」とばかりに、シャチとベポに両側から叩かれた。
その様子に今度こそ笑みが零れた。
「ふふッ、でも本当のことよ。だってわたし、途中から見張りをするの、忘れてたもの。」
ちょうどローが寒いと言い出した時から、もう見張りどころじゃなくなって、双眼鏡を覗くことすら忘れていた。
もちろん、その間はローがしっかり見張りをしていたけれど。
「わたしに見張りは向かないみたいね。」
あんなことがなければ、朝までしっかり見張り番をこなせたと思う。
だけど、心配してくれるみんなのために、あえてそう言った。
「その代わり、見張りをしてくれるみんなのために、夜食を作って差し入れることにするわ。」
たぶんそれが、みんなにとって1番喜ばしいことだろう。
案の定、全員目を輝かせた。
「マジか! じゃあ、明日の見張りは俺がやろう!」
「いや…、明日はもともと俺の当番なのだが。」
「うるさいぞ、ジャンバール! 新入りはおれの次って決まってるんだよ!」
静かな夜が、あっという間に騒がしくなり、唯一なにも言わなかったローは、ひっそりとため息を吐く。
この船のクルーは、モモを好きすぎるのだ。
もちろん、自分も含めて…。