第42章 追憶のひと
「というか…、なんでここにいるんだ船長。」
火鉢の炭を足しながら、ジャンバールは胡乱な目を向けた。
巨体なジャンバールが見張り台に登ると、一気に狭くなる。
「…別に。コイツひとりじゃ、見張りの仕方もわからねェんじゃないかと思っただけだ。」
先ほどは、「今日から見張りは2人制になった」と訳のわからないことを言っていたくせに、まるで仕方なく…といった様子のローをモモもじとりと睨む。
「お前こそ、今日は見張り当番でもないくせに、なぜこんな時間まで起きている。」
夜も深まり、普段ならとっくに寝ている時間なのに。
「いや…、やはりモモひとりに任せるわけには。…って、違うぞ! お前を信用していないわけじゃないからな。」
今朝のやりとりを思い出し、ジャンバールは慌てて否定した。
みんながモモの見張りを反対したことで、彼女の機嫌が悪くなってしまったことは記憶に新しい。
けれどモモは、少し照れたように笑いながら「わかってる」と呟いた。
今朝はどうかしていたのだ。
みんなは心配していただけなのに、変にへそを曲げてしまった。
「心配してくれてありがとう、ジャンバール。」
「いや、今夜は冷えるからな。…ん、モモ、鼻が赤いぞ。」
鼻だけでなく、目も少し赤い。
不思議そうに首を傾げるジャンバールに、今度はモモが慌てた。
「……ッ、や、やっぱり冷えたのかも!」
そう言ってゴシゴシと擦り、赤い鼻をさらに赤くした。
泣きそうになっていたことなど、言えるはずがない。
ジャンバールの登場に、それを誤魔化せたことを感謝していた。
「やはりな。ほら、暖まれ。」
グイッと炭火を足した火鉢を寄せられ、少しだけ申し訳なく思った。
しかし、思いがけず人数が増えた見張り台に、さらに賑やかさがやってきたのは、そんな時だった。