第42章 追憶のひと
腕の中にいるモモの様子が明らかに変わった。
固く強張り、ほんの僅かだけど震えている。
それは寒さが理由ではなく、なにかを堪えるように。
「…どうした?」
具合でも悪くしたのかと声をかければ、すぐに「なんでもない」と返答がある。
心なしか、声が上擦っていた。
「やっぱり冷えたんじゃねェのか? もう部屋に戻った方がいい。」
「そうじゃ、ないの。」
本当に具合が悪いわけではない。
でも、今はその理由に触れないで欲しかった。
「体調を崩したんじゃないだろうな。…オイ、こっちを向け。」
頑ななモモの様子に、具合を悪くしたと勘違いをしたローは、肩を掴んで自分の方を向かせようとする。
これに焦ったのはモモの方。
自分が今、どんな顔をしているのかは容易に想像がつく。
涙こそ出てはいないが、それに近い表情をしているに違いない。
そんな顔を見られたら、ローはどう思うだろうか。
きっと、理由を問いただす。
でも、理由を話すことはできない。
“彼”のことを話すことができない。
「…オイ、モモ。」
掴まれた肩に力がこもる。
先ほどからパチパチと爆ぜていた火鉢もやけに静かで、ローを止めるものは誰もいない。
待って…!
見ないで、と心で叫びキツく目を閉じる。
ギシリ…。
「あ……。」
聞こえてきた声は、妙に間の抜けた声だった。
その声は、ローのものではなければ、モモのものでもない。
「……?」
不思議に思って目を開けると、たった今 見張り台に登ってきたであろうジャンバールの姿が。
その手には熱々の炭火が入ったバケツか握られている。
「その…、そろそろ火鉢の火が弱くなる頃だと思ってな。…すまん、邪魔をした。」
「ま、待って! 邪魔じゃないから…ッ」
空気が読めなかったと詫びて降りようとするジャンバールを必死で止めた。