第42章 追憶のひと
なんか、暑い…。
先ほどまで、実は少し寒いなと思っていたのだが、今は身体が火照るように暑い。
しかしこれが、本当の暑さではないこともよくわかっていた。
この距離にローが接近するのは珍しいことではない。
何度も抱き寄せられたし、抱きしめられたりもした。
けれどそれは、最初の頃の衝動的な欲求だったり、トラブルが原因だったり。
モモがシャボンディ諸島に入る前、軽々しく扱われたくないと望んだ通り、ローは自分に欲求をぶつけるようには触れなくなったのだ。
あの時は、それでも自分はローの“特別”だと信じられた。
でも先日、その“特別”の意味を知った。
ローはモモを仲間としての“特別”ではなく、女性としての“特別”であると言った。
いったいいつからなんだろう…。
彼がそんなふうに想ってくれているとは知らず、無邪気に接していた自分が愚かしい。
ローの気持ちを跳ねのけたとはいえ、自分に好意を持っている彼とこんなふうに接近するのは、ひどく緊張した。
この緊張が、胸の高鳴りが、ローに伝わりませんように。
この想いが、どうか伝わりませんように…。
偶然を装ってモモの指先に触れた。
夜風に吹かれて冷たくなっていたはずの指は、今はもう熱を取り戻している。
身体の震えも治まってきていることを確認し、そっと安堵の息を吐いた。
例え過保護だ、心配性だと言われても、こうしてモモを案じることだけは止められない。
自分でもどうかしているとは思うが、それほどローにとってモモは“特別”だった。
彼女のどこがいい、なにがいいと聞かれても、たぶん上手く言葉にはできないだろう。
だけどきっと、出会った頃から“特別”だったのだ。
薬草が風になびくシルフガーデンの畑で、水の飛沫にキラキラ輝きながら歌を唄うモモを見つけてからずっと。
あの瞬間、世界の色が変わって見えたのだから。