第42章 追憶のひと
ジャンバールが用意してくれた火鉢をローの方へ押しやりつつ、モモは自分のマフラーを外した。
「これ、使って。」
首もとが温まるだけで、寒さはずいぶん和らぐはずだ。
しかし、差し出したマフラーを受け取ってもらえない。
「首回りが鬱陶しいのは好きじゃない。」
「えぇ?」
そんなこと言っている場合か?
それに確か、ローはよく首回りがフカフカした服を着ていたような気がするけど…。
あれ? と違和感を覚えたけど、次にローがとった行動にそれどころじゃなくなった。
「…こうすりゃ手っ取り早いだろ。」
「…え?」
バサリ。
ふわりと消毒液の匂いが鼻を掠め、同時に温かな毛布がモモの身体を包んだ。
一瞬、毛布を被されたのだと思ったけど、すぐにそれだけじゃないことに気がついた。
なぜなら、ローの身体が密着しそうなくらい近くにあったから。
「……ッ!?」
驚きのあまり、身体を弓なりに仰け反らせた。
「オイ、動くな。危ねェだろ。」
見張り台はそれほど広くない。
うっかり転げ落ちそうなモモの背を抱き寄せ、さらに身体を密着させた。
「ちょ、な、なにして…!」
「うるせェな、寒ィんだよ。…じっとしてろ。」
じ、じっとしてろって言われても…。
だって自分たちは今、1枚の毛布に抱き合うようにくるまっているのだ。
落ち着いていられるわけがない。
「お前は体温が高いから暖にちょうどいい。」
「そ、そんなこと…。」
確かにモモは他の人に比べて少し基礎体温が高い。
でも、こんな暖まり方って…。
自分の心臓の音がドクドクとうるさい。
このままだとローに聞こえてしまいそうだ。
「お前がどうしても嫌なら離れるが…。」
「え…。」
嫌、というわけではない。
むしろ…。
(ううん。これはローを温めるために必要なこと。仕方ないのよ。)
心臓の音の正体をやましいものではないと必死に言い訳づけながら、モモはゆっくりと首を横に振った。