第42章 追憶のひと
一心不乱に夜の海を双眼鏡で眺めるモモを見つめ、ローは静かにため息を吐いた。
どうせ止めてもムダだから、どうせなら一度 自分も立ち会いのもとやらせてみてもいいと思ったけど、やはりというか…モモは見張りに向いていなかった。
上手な息抜きの仕方を知らない彼女は、敵船がいないかと注意深く双眼鏡を覗いている。
しかし実のところ、モモが見ているのは海と一体化して解りづらくなっているが、海ではなく空である。
(さすがに空から船は飛んでこねェだろ。)
そう突っ込んでやりたいが、大真面目に見張りをするモモが可愛かったので、なにも言わずにいた。
「……くしゅんッ」
雪が降るとまではいかないが、今日の気温は低い。
春島で長い間 生活していたモモには堪えるだろう。
(ホラ、言わんこっちゃねェ。)
案の定、身体を震わせてくしゃみをするモモに呆れた。
ローにとってはこのくらいの寒さなど、どうってことないのだ。
それなのに毛布を寄越したりするから…。
けれど、ここで毛布を手渡したとしても、モモは決して受け取らないだろう。
どうにか彼女に毛布を渡す手はないかと考えあぐねた結果、思いついた案は、先日の一件を思うとなんとも気まずいものだった。
だが、モモに風邪を引かせるわけにはいかない。
モモのためだ、決して下心などではない。
そう言い訳づけて行動を起こすことにする。
「……寒い。」
「え…?」
後ろでローがぼそりと呟き、モモは驚いて振り返った。
見るとローはなんとも言えない仏頂面で毛布にくるまっていた。
「寒いの? だから言ったのに…。」
それだけ薄着ならばそうなるだろうと納得しつつも、ローがまったく震えていないことに首を傾げた。
「見張りはわたしひとりでできるから、もう部屋に戻ったら?」
「断る。」
「ええ!?」
せっかく提案してるのにバッサリと切り捨てられ、思わず大きな声を上げた。