第42章 追憶のひと
結局、ローと2人 見張り番をすることとなったモモは、できるだけ役割を果たせるよう率先して見張り台へと登った。
(冷た…。)
見張り台へと続くハシゴは凍てつく風のせいですっかり冷え切っており、それを掴む手のひらには痛みすら感じる。
けれど、そんな素振りを見せてはローにまた甘やかされてしまうだろう。
だからなんでもないフリをして黙々とハシゴを登る。
(それにしても…。)
モモに続いてハシゴを登るローをチラリと見た。
シンプルなロングTシャツの上に上質な黒のコート。
そして頭にはいつものキャスケット帽。
ずいぶんと薄着だと思う。
(寒くないのかしら…。)
自分はこんなに重ね着してもまだ寒いのに。
脂肪だって、たぶんモモの方が倍以上ある。
もしかしたら身体を鍛えすぎると、脳の一部が筋肉化して感覚を鈍くするのでは…。
そんな失礼なことを考えながら登っていると、いつの間にか見張り台へ到着した。
「よいしょ…。ん…、あれ?」
デッキより直に風を受ける分、見張り台は寒い。
けれど覚悟して上がった見張り台は、デッキの上よりずいぶんと暖かかった。
「…どうした。」
不思議に思って首を傾げていると、後から上がってきたローが声をかけてきた。
「なんか…、暖かいなぁと思って。」
言われてからローも気がついたようで、視線をぐるりと回すと「ああ…」と納得がいったように呟いた。
「アレのせいだろう。」
「え…。」
ローの視線の先を追えば、いつの間に用意してあったのだろう、小ぶりな火鉢が置いてあった。
その隣には1枚の毛布まで。
「これ…、ローが用意してくれたの?」
あらかじめ準備してあった火鉢と毛布に驚きつつ、ローを見上げた。
しかし、予想に反して彼は首を横に振る。
「イヤ、恐らくベポとジャンバールの仕業だな。」
日が暮れる前にジャンバールが炭火を作っているのを見たし、隣りにある小汚い毛布はベポのお気に入りのモノだ。
「ベポとジャンバールが…。」
2人は見張り番をモモにさせてくれるだけでなく、モモがなるべく寒い思いをしないよう、気を回してくれたのだ。
火鉢と毛布の暖かさよりも、別のぬくもりがモモの心をポカポカと温めた。