第42章 追憶のひと
「こんなところでどうしたの?」
まず浮かんだのは疑問。
ローは最初こそモモの見張り番に反対したけど、その後は他の仲間たちがどれだけ反対しようとも特に引き止める様子はなかったからだ。
「今夜の見張り番は俺だ。」
「…え?」
自らを見張りだと言う彼に驚く。
そして訝しげな目を向けた。
「今日はわたしが見張り番をするのよ?」
一度は了承してくれたはずなのに、ここへきてまさかの反対だろうか。
いや、そもそも心配性なローが簡単に了承してくれた方がおかしかったのだ。
とりあえず了承してモモを黙らせ、後から無理に止めさせる魂胆だったのかもしれない。
そんな騙し討ちのようなことをされるなら、初めから許可などくれない方が良かった。
モモの視線に非難めいたものを感じ取ったのか、ローは「勘違いするな」と続けた。
「見張り番は俺とお前の2人で担当する。」
「…2人?」
それはおかしい。
見張り番は交代制ではあるけど、担当は常にひとりのはずだ。
「担当はひとりで十分でしょう。コハクだって、昨日はひとりだったはずよ。」
いくら見張り番をしたことがなくとも、そのくらいは知っている。
「今日から2人制に変えた。」
「はい?」
今日から変えたって…。
わかってる。
別にローはモモが頼りないからこんなことを言い出すのではない。
ただ、心配をしてくれているのだ。
でも、せっかくみんなに休んで欲しくて見張り番をするのに、こんなことでローの時間をムダにしたくなかった。
「あのね、ロー…。」
「モモ、この船では俺がルールだ。従え。」
説得を試みる前に、ズバリと切り捨てられた。
「……。」
それを言われたら、モモには黙って頷くしかない。
ローはいつだって、狡くて優しい。
「…わかったわ。」
ローと2人、見張り番だなんて。
(ちゃんと集中できるかな…。)
自信のなさを隠すようにギュッと双眼鏡を握りしめ、雲ひとつない満天の夜空を仰いだ。