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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第42章 追憶のひと




その夜、モモは自分が持っている服の中で、できるだけ暖かいものを選んだ。

タートルネックの肌着の上にシャツとニットを重ね着して、羽毛のたっぷり詰まったダウンを羽織る。
厚手のタイツと裏地が起毛のロングスカート。
それにマフラーとニット帽を被れば、耐寒対策としては万全だ。

よし、と小さく握り拳を作ってからデッキへ出ると、冷たい風がモモを襲う。


「……寒ッ」

ブルリと震えた身体を両腕でさする。

吐き出す息は白いし、遮るものがなくて容赦なく吹きすざぶ風はモモの体温を簡単に奪った。

(冬の海の夜は、こんなに寒いのね…。)

冬の海はいつでも寒いけど、夜がこんなに厳しいものだなんて知らなかった。

だって、島にいれば木々が風から守ってくれるし、船に乗っていたころは暖かい部屋にいて調剤の仕事にだけ取り組んでいられた。

その陰では、いつも誰かがこんなに寒い思いをして見張り番をしてくれていたのだ。

ローも、ベポもジャンバールも、シャチもペンギンも、そしてコハクも。

簡単に自分も参加するだなんて言った。

しなくていいと言う仲間たちに「侮られた」と変な意地を張った。


(なんだか、恥ずかしい…。)

モモは決して、みんなにあてにされていなかったわけじゃない。

ただ、守られていただけだ。

そんなこともわからずに意地を張って、なんて恥ずかしいことだろう。

「……。」

先ほどまでの意気込みはどこへやら。
急激に気分が落ち込んできた。

けれど見張り番はしっかり果たしたい。

いい機会じゃないか。
みんなの辛さを知ることができるのだ。

半ば無理矢理 ヤル気を漲らせるが、海の風が嘲笑うかのようにいっそう強く吹く。

「……ッ」

強く目を瞑り、襲ってくるであろう寒さに備えた。


「……?」

おかしい。
いくら待っても冷たい風はやってこない。

急に風向きが変わるわけもなく、確かめるためにそっと瞼を開くと、モモの風上に立ちはだかるように佇む人影がひとつ。

いったい、いつからいたのだろう。

「…ロー。」



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