第42章 追憶のひと
それから1時間ほどすると、クルー全員が起きてきてキッチンに集った。
「えッ、今日の見張り番、モモがやんの?」
カロリー多めな朝食をペロリと腹に収めたシャチは、モモの「見張り番やる」宣言に持っていたホークをガシャリと落とした。
「そうよ。わたしだけやっていないなんて、不公平でしょう?」
「いやー。でも夜は寒いし、風邪なんか引いたら大変だぜ?」
グランドラインの気候は安定せず、その日 夏のような熱帯夜でも、次の週には真冬のような寒さになるのも珍しくない。
実際、昨日今日とかなりの冷え込みだ。
「大丈夫よ。厚着をするし、わたし風邪を引いたことがないの。」
医者の不養生とはよく言うが、薬剤師である以上、己の体調管理には人一倍気をつけている。
「んー…。でも、人手も足りてるし、わざわざモモがやることもないッスよ。」
シャチに続いてペンギンまでもが柔らかく反対すると、モモはあえて笑顔を作る。
「あら…、わたしじゃできないと思ってるの?」
「え…。」
笑っているはずなのに、なんだか寒気がする。
(え、笑顔が、コワイ…。)
なんだか有無を言わさない雰囲気を醸し出していて、「そんなことない」と答えるほかなかった。
「じゃあ、決まりね!」
今度こそ本当の笑顔になったモモは、意気揚々と食器の片付けを始めた。
モモが後ろを向いた途端、クルーたちは船長の方をチラリと見る。
1番反対しそうなローだが、会話に口を挟まずリビングの隅でコーヒー片手に黙々と本を読んでいる。
ローが異を唱えない以上、自分たちが騒ぎ立てても仕方ないだろう。
(しょうがない、せめてモモの気が済むようにしてやるか。)
モモが気づいているかは微妙だが、この船のクルーたちは、船長を含めて全員が彼女に甘かった。