第42章 追憶のひと
塩気の強いベーコンを厚めに切り、焦げ目がつくまで両面を焼く。
軽くレモンを絞ったら、半熟の目玉焼きを添えた。
ここでトーストでも焼けば立派な朝ゴハンの完成だが、いかんせん、この船にはパン嫌いが2人もいる。
妙なところまで似てしまった2人に苦笑しながら、ジャガイモのニョッキを茹でた。
濃厚なチーズソースに絡めたら、サラダを付けて朝食の出来上がりだ。
朝からカロリーが高そうな食事だが、海賊の食事は少しエネルギッシュなくらいがちょうどいい。
フォーク片手に朝食を待ちわびているコハクの隣には、いつの間にかローが座っていた。
先ほどコーヒーを淹れてあげたから、とっくに部屋へ戻ったものと思っていたのに。
「ローも朝ゴハンにする?」
「…ああ。」
「わかった。」
ローの分を手早く用意しながら、そういえば彼に言おうとしていたことがあったのだと思い出す。
「そうそう…。ロー、今日の見張り番はわたしがやるから。」
「……あ?」
出されたベーコンをフォークでつついていたローは、訝しげに顔を上げた。
「コハクもしているんだもの、わたしが担当しないのはおかしいでしょう?」
それとこれとは話が違う。
モモが知っているのかわからないが、コハクはシルフガーデンでもしょっちゅう見張りをしていて、こういう仕事に慣れていた。
ローとコハクが出会ったのも、コハクの見張りが優秀だったからこそだ。
「人には適材適所ってのがあんだよ。お前が見張りをする必要はない。野郎どもに任せておけばいい。」
「あら、わたしには見張りができないって言うの?」
ローとしては、夜通し寒空の下で目を光らせなくてはいけない仕事など、女性にさせられるものではない。
そういう意味のつもりだったが、なにかが彼女の気に障ったらしく、むくれた表情をした。
「見張りくらい、わたしにもできます。とにかく、今夜はわたしが担当するから。」
少々意地になっているようにも思えて横目でコハクに「なにがどうなってる?」と尋ねるが、コハクはふるふると首を横に振るだけだった。
なにやら変なところに火がついてしまったらしい。