第42章 追憶のひと
いつの間にか昇った朝日が目を差し、ローは本から顔を上げた。
(朝か…。)
徹夜するつもりはなかったのに、つい悪い癖が出てしまい読書に没頭してしまった。
睡眠不足に慣れきった身体は徹夜程度ではたいした疲れを訴えず、これから眠る気にはとてもなれない。
朝になってしまったのならしょうがない。
このまま本を読み切ってしまおう。
そう開き直り、デスクの上のカップに手を伸ばす。
「チッ、空か…。」
無意識の内に飲み進めたカップの中身は、とっくに空になっていた。
このまま諦めてもいいが、できれば読書は濃いコーヒーと共にしたい。
誰かに頼みたいところだけど、ウチのクルーときたら飲み物を淹れるのがひどく下手だ。
もちろんモモだけは別だが、彼女はまだ夢の中だろう。
コーヒーを理由にしてモモの部屋のドアをノックしたい衝動に駆られるが、すぐに思い直す。
ローの気持ちに応えられない。
そう言ったモモの辛そうな表情を思い出すと、以前のように彼女の深い部分に足を踏み入れることできないのだ。
いくらモモがコハクの父親のことが好きだからといって、この想いを諦めるつもりは毛頭ない。
けれど今は、続きになったあのドアを開ける勇気が自分にはまだ足りない。
感傷的な自分にうんざりする前に、ローはカップを手に重たい腰を上げた。
ひとつ上のフロアにあるリビング兼キッチンに上がると、まだ誰もいないと思っていた部屋からは香ばしい良い匂いが漂っていた。
不思議に思って中に入ると、キッチンにはテーブルの席につきホットミルクを啜るコハクと、なにやら食事の支度をするモモの後ろ姿があった。
「おはよう、ロー。」
「…なにやってんだ、お前ら。」
朝食の時間には、まだずいぶん早い。
「オレ、昨日見張り番だったんだよ。そしたらなんか腹減っちゃってさ。」
そういえば、ペンギンがコハクにも見張り番をやらせてみたいと言っていた気がする。
昨夜がその初日だったらしい。
ちゃんと知っていたら、読書の合間に様子を見に行ったのに。
とりあえず、きちんと報告をしなかったペンギンの頭をあとで ど突いてやろうと決めた。