• テキストサイズ

セイレーンの歌【ONE PIECE】

第42章 追憶のひと




『俺と一緒に行こうぜ。』

記憶の中の あの人は、いつもそう言ってモモに手を差しのべた。

優しくて笑顔の眩しい人だった。

けれど、モモがその手を取ることは最後までなかった。

もし、時間を遡ることができるなら、あの時、あの瞬間に戻りたい。


ダメ、待って。

行ってはいけない…!



「……ッ」

ハッとして目を覚ました。

揺れ動く天井に一瞬ここがどこか思い出せず、ぐるりと周囲を見渡す。

ザザン…。

耳に聞こえてくるのは、波が船体に当たって砕ける音。

ああ、そうだ。
ここは海賊船。

自分はハートの海賊団に再び入り、薬剤師として仕事をしているのだ。

魚人島から出て“新世界”と呼ばれるグランドライン後半の海に足を踏み入れたのは、まだ記憶に新しい。

そんなときに、つい自分の状況を忘れてしまったのは、たった今 懐かしい夢を見てしまったからだ。

じんわりと掻いた汗を拭いながら、太陽の光が差す窓辺へと目を向けた。

気持ちよさそうに眠るヒスイの隣には、手のひらに収まるほどの小瓶が2つ。

どちらもモモの大切な宝物…。


コンコン。

ノックの音で我に返った。

「……はい。」

ベッドから飛び起き、急いで髪を手櫛で整えてから返事をすると、ガチャリとドアが開かれる。

「おはよう、母さん。起きてた?」

ひょっこり顔を出したのはコハクだった。

「うん、さっきね。コハクこそ早いじゃない。」

時計を見ると、時刻はまだ早朝を指している。

「昨日はオレ、船の見張り番をしたんだ。」

「え、そうなの?」

見張り番とは、敵船や海に変化がないかなどを双眼鏡片手に夜通し見張る担当のことだ。

交代制とは言え 寝ずの番になるし、それなりに過酷なのでモモはやったことがない。


「オレもクルーの一員なんだし、見張り番くらい当たり前だよ。」

コハクがいつの間にか一端の海賊の顔になったことに なにやら感慨深い気持ちになる。

「そうね。じゃあ、わたしもやってみようかな?」

コハクまで担当しているのに、自分だけがしていないのでは申し訳ない。

「え、止めとけよ。海に落ちそうだし…。」

「……。」

心配されているはずが、なんだかバカにされているような気がしてジトリと睨んでやった。



/ 1817ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp