第8章 嫉妬
「ねえ、メル。これのどこが合コンなの?」
「えー、なぁに? 聞こえない。」
その酒場の一室は、メルディアの仲間たちでいっぱいになり、ひどい有り様になっている。
そして自分はメルディアの要求を押し切れず、普段着ないようなキャミソールタイプのミニスカートワンピースを着ている。
腕や胸、足がさらけ出て、死ぬほど恥ずかしいが、彼女いわく「これでも譲歩したわ」だそうだ。
メルディアが合コンと称した飲み会は、もはや一味の酒盛りと化している。
彼女自身、だいぶお酒が回っているようだ。
「あー…楽しい!」
メルディアはモモの肩へともたれかかる。
「ねえ、モモはどうして海賊になったの?」
彼女は興味深そうに聞いた。
「わたしは別に、海賊になったつもりはないけど…。でも、みんなの役に立ちたいって思ったからかな。」
薬剤師としての自分を必要としてくれる。
「ふうん…。なんだ、モモは海賊じゃないのね。」
そもそも海賊とそうじゃない線引きはどこなのだろう。
「メルは? どうして海賊になったの?」
「んふ、聞きたい…?」
メルディアはトロリと甘い目をモモに向けた。
同性のモモでさえ、ゾクリとしそうな流し目。
「…聞きたい。」
「じゃ、特別に教えてあげる。」
彼女は内緒話をするかのように、密やかに言った。
「私ね、母の絵画を取り戻したいの。」
メルディアの母は画家だった。
生まれたときから父はおらず、母は女手ひとつでメルディアを育てた。
画家としての仕事だけでは生活できず、夜には体を売っていた。
それでも母は絵を描くことを止めなかった。
母の絵は、母の人生そのもの。
母の喜び、母の悲しみ、母の怒り、その全てが詰まってた。
その絵を世界中の人に見てもらう。
それが母の夢。
しかし、その夢が叶えられることはない。
過労がたたり、母は倒れた。
死に際に、母は夢がついえることへの無念を口にした。
だからメルディアは誓ったのだ。
必ず自分がその夢を叶える、と。
それから死ぬ思いでお金を貯めた。
そのお金で小さな個展を開いたのだ。
そこで、母の夢は花開く。