第2章 解かれた封印
「ああッ…ミーコ!ミーコ!」
少女はわんわん泣き、小さな親友の手を握った。
(急いで病院で診てもらう? いいえ、この吐血量は一刻を争う…。)
それこそ下手に動かせば命取りとなる。
しかしこのまま放っておけば少女の親友は間違いなく死ぬだろう。
(でも、助ける方法が…ある。)
それはこの12年の間、贖罪の想いから一度も使ったことのない方法。
(でも…。)
幼き少女の欠けがえのない親友を守るためなら、母も、あの頃の自分も、許してくれるのではないか。
少なくとも、この少女がこれから数年の間、笑って過ごす未来は守れるだろう。
「ミーコ…ッ」
少女の泣き叫ぶ声が聞こえる。
モモは覚悟を決めた。
大きく息を吸い、12年間解かれることのなかった封印を解く。
口にするのはあのとき母を救えなかった『癒やしの歌』。
「えッ…!!」
少女にとって、それは二重の驚きだった。
口の利けないはずのお姉ちゃんが歌を唄っている。
そして、ミーコの傷がみるみる治っていく。
モモが歌を唄い終える頃には、猫の傷はすっかり塞がり、ニャーと鳴いて少女に擦り寄るまでに回復していた。
「ミーコ!…すごい、お姉ちゃんは魔法使いだったの!?」
興奮と感動が入り混じった表情で少女が見た。
そんな少女の頭を撫でてやりながら、モモは口元に人差し指を当てた。
(内緒よ…?)
「うん、うん!内緒にする!」
何度も頷き、嬉しそうに猫を抱く少女を見て、モモは温かい気持ちになった。
(良かった、助けられた…。)
猫を連れて家に帰る少女を見送った。
12年という歳月は、少なからずモモに油断を与えた。
もし、あの頃の自分なら、猫を見捨ててでも歌を唄ったりしなかっただろう。
モモが自らの声を封じたのは、贖罪のためと、自分を守るためだ。
噂が息を密めたことにより、自分は少し平和というものに慣れすぎたのだ。
贖罪ばかりに気を取られ、自分を守るということを忘れてしまった。
だから少女の前で唄ってしまったのだ。
興奮した幼い子供が、本当に誰にも秘密を明かさないか、なんて考えもせずに…。