第2章 解かれた封印
あれから12年。
モモは17歳になった。
癖のないキャラメル色の髪は腰まで伸びた。
あまり外に出ないせいで肌は白い。
母譲りの瞳は光の加減によっては金に見える神秘的な緑色。
儚げで、それでいて意志の強そうなモモを村人は『妖精のように美しい』と称えた。
妖精に例えられると胸の中に苦い思いが込み上げたが、ここ数年でようやく例の噂も落ち着いたことから、モモはこの村で薬剤師として暮らしていた。
幼い頃から母の手伝いをし、植物と戯れていたこともあって、モモの薬剤師としての腕は確かなものだ。
おかげで言葉を紡げなくても十分生きていくには困らなかった。
その日、モモは庭で育てた薬草から薬を作り、近くの病院に届ける途中だった。
街の広場を通過しようとすると、木陰で女の子がうずくまっていた。
どうしたのだろう、と近づいてみると、よくこの広場で遊んでいる子だと気がついた。
トントンと肩を叩く。
「ひっく、ひっく…ッ。…お姉…ちゃん。」
少女の瞳から大粒の涙がボロボロと零れた。
(どうしたの?)
眼差しで少女に尋ねる。
「ミ、ミーコが…ケガして…元気がないの。」
少女の腕の中には飼い猫が抱かれていた。
犬にでも噛まれたのだろうか、腹から血を流してグッタリしている。
「ミーコ…ミーコ…ッ」
この少女からはいつも飼い猫の話を聞いていた。
忙しい両親に代わって、いつも傍にいてくれる大切な親友だ、と。
モモはすぐに届けるはずだった薬を取り出し猫の腹に塗りつける。
血止めの薬だ。
飲み薬を飲ませられない以上、こうするしかない。
しかし…。
ゲホッと猫は吐血した。
内臓を損傷している証拠だ。
すぐに開腹して手術をする必要がある。
けれどモモには外科的な知識はない。