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ハコの中の猫 【黒執事R18】

第1章 第1話


「私の名前はセバスチャン・ミカエリスと申します。英国から参りました。ここ数年は日本に滞在しています。」
 渚はわずかに頬を染めて、さらに言葉を繋げる。
「英国ってことはイギリス?素敵ですね~!じゃあ英語とかもペラペラなんですね?で、彼女さんとかはいるんですか?」
 何が素敵なのか。この女が英国について素敵と表現するだけの知識があるとは思えない。ついでに、恋人の有無について、唐突にも再び話題に出してくるあたり、この女の最大の関心事は、その一点に集約されるに違いない。
「お褒めにあずかり光栄です。それと、私に恋人などはいませんよ。」
 何が光栄なのか。この男は、そんな安い言葉などに見向きもしない。きっと胸の内では唾の一つでも吐き捨てているに違いない。
「わああ!彼女さんいないんですね?だったら、あたしにもチャンスありってこと、ですよねー!あたし、頑張っちゃうかも!」
 何をどう頑張るのかさえも、もはやどうでもいいが、この男の紅茶色の瞳が、わずかに血の輝きに煌めいたことは、絶対に見逃してはならない。
「ええ、どうでしょうね?」
 この男、何を考えているのか。いや、もはや何を考えていようが、結末は決まっているのかもしれないが。
「あっ、そうだっ!連絡先、交換してくれません~?」
 何が「あっ、そうだ」なのか。誰がどう見ても、最初からそれが目当てのようにしか見えなかったが。白々しいにも程がある。
「申し訳ありません、ここのフロントに手荷物を預けた時に、ついうっかり携帯電話も一緒に預けてしまいまして。」
 男も男だ。この男に限って、「ついうっかり」など有り得ない。確実に確信犯ではないか。
「式が終わってから二人きりになった時でも、構いませんか?」
 男は哀愁を帯びた瞳を女に向け、他の誰にも聞こえないよう、そっと耳打ちする。女は、柄にもなく頬を染め直し、こくりと頷く。おおよそ、あわよくばのその先を想像して頬を染めているのだ。少女が初恋の相手を見て頬を染めるような可愛らしいものではない。きっと今この女の脳内では、愛欲に塗れた淫靡な妄想が広がっているのだ。いずれにせよ、ここまできてしまったのだ。哀れ、この渚とかいう女の結末は、この辺りで運命づけられたも同義だ。



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