第1章 第1話
「はじめまして~。背、高くてカッコイイですねっ!ずっと見てましたぁ~。わあー!こうやって近くで見ると、モデルさんみたいっ!あ、本当にモデルさんだったりするんですかぁ?ふふっ、こーんなにカッコイイ恋人さんを持っている彼女さんはさぞかし鼻がたかいでしょーねー!うらやましいなー!」
先ほど結衣とやらに抗議していたトーンとは明らかに異なる、甘えたような可愛らしい声音で、渚は男に擦り寄る。渚の豊満な胸や腰辺りのシルエットは、恐らくかなり扇情的なもののはずだ。会場にいるその他の男共のうち何人かは、チラチラとこの露出度の高い胸部へと視線を送っていた。そういえば、この渚という女、自分の後ろでどうやっていいか分からずうろたえている結衣とかいう女の事は、はじめから存在しなかったかのように振る舞っている。
「はじめまして。ふふ、ありがとうございます、お嬢さん。貴女も充分にお美しいですよ。」
男は、このように甘えた声で近寄ってこられることにも当然慣れているのだろう。男はにっこりと微笑んだままで受け答えする。どうでもいいが、相変わらずこの男の声は妖艶で甘い。甘いものも摂取し過ぎると毒になるとかよく言うが、その筆頭がこの男の声に違いない。きっと、この声は耳から入っては、脳辺りを溶かすようにして侵していくのだ。
「きゃあー!お世辞でも嬉しいですぅ!ねぇねぇ、お名前は何ていうんですかぁ?今日はどちらからお見えなんですかぁ?」
社交辞令に気を良くしたのか、渚のテンションは急上昇を見せる。