第1章 第1話
「では、ここでお色直しとしますので、会場の皆様はしばしご歓談ください。」
式は順調に進行している。主役が席を外したところで、会場は再び話し声で騒がしくなる。
参列者たちは、人間同士で他愛もない会話を始める。そう。あなたに恋人はいるのですか、とか、何のお仕事をされているのですか、とか、そんな話ばかりが飛び交う。一体この人間共はここに何をしに来たのか全く分からないほどだが、これが普通だ。それにしても、主役の幸せを黙って見逃してやっている分の、わずかな見返りを掻き集めているようで、ここにいる人間どもは非常に滑稽でもある。こんなことを言うと、ただの人づきあいだから、社交辞令だからと反論する人間もいるだろうが、さて、果たして全てがそうと言い切れるだろうか。本当のことを答えられる奴なんて百人に尋ねたところでほんの一握りだろうが、改めて問いかけてみたいものだ。……。またも話が逸れてしまったが、会場の様子に戻ろう。
先ほどのいやらしい男は、当然のごとく新婦側の『友人』に取り囲まれていた。もはや『新婦の友人役』という大義名分の詰まった仮面は無残にも剥がれおちており、『新郎の友人役』という肩書きの「男」の品定めにご執心しているような感じだ。いやらしい男は、特に困った様子もなく、美しい愛想笑いを貼りつけて応対している。慣れた様子で彼女らをあしらい、捌いている辺り、この男はやはり百戦錬磨なのだろう。
「ああもう、出遅れちゃったじゃない。結衣も早く行こうって!」
どうやら、先ほど愛想笑いに尽力していた女性の名前は、結衣というらしい。その結衣という女の腕を、もう一人の女が引っ張っている。腕を引っ張っている女性は、結衣という女と違いテンションが高い。腕を引っ張る女の目線はもはや結衣には全く向いておらず、その目にはいやらしい男の姿が前面に映っていた。
「あ、ちょっ、渚……。」
腕を引っ張った女の名前は、渚というらしい。いかにも気の強そうな名前だ。
結衣は気も腰も引けているようだが、渚はそんなことには全く以ってお構いなしだ。なぜか結衣を引きずり気味に、男の元へと邁進する。そして、これまた手慣れたように既に男を取り囲んでいる女のバリケードを掻き分けて男の正面に立つ。