第1章 第1話
話を戻そう。式場で愛想笑いに尽力しているであろうこの女もまた、この場におけるそんな類の人間の筆頭だろう。この女は、例の玩具のようにひたすら自らの胸の前で両手を打ちつけているが、目はさして笑っていない。それどころか、その瞳には翳(かげ)りすらある。細かい事情は知る由もないが、新婦側の参列者であることは確かだ。しかし、心から新婦のハレの日を祝っている様子は全く無い。むしろ、何がしかの負の感情を自らの瞳に乗せている節すらある。このハレの席を祝う場の参列者としてはキャストとして不適当と言えるが、上述の理由で、そこまで咎められるべきでもない。まぁ、誰が咎められようが報いをけようが、知ったことでもないが。
ついでに、もう一人、先ほどの女とは全く別の意味で、この会場に不適切な存在がいたりする。神だの誓いだの神聖だのといった単語が飛び交うこの式場に、おおよそ存在してはならない男が。新郎の友人側に佇んでいるが、どうにもこうにも他の人間たちと雰囲気が違う。身長はすらりと高く、姿勢も正しく、さらには気品にあふれる見目麗しい姿の好青年。容姿のみに重きを置く女性でなくても、およそ女性であれば一発でこの男の放つ色香に堕ちてしまうだろう。容姿全体が繊細なラインで描かれており、芸術品か何かのように上品である。顔にも瑕(きず)一つ見当たらない、ありていに言えば「イケメン」だ。この男にはそんな魅力が確かにある。しかしながら、その口元にはいやらしく笑みを浮かべており、眼はまるで柄ものを品定めするかのように薄く開かれている。さらにその眼の奥には好奇の光――――いや、そんな生易しいものではない。可愛らしい草食動物に狙いを定める肉食獣の眼力が宿っていた。