第2章 第2話
「おいしいです。」
素直な感想を口にする。気の利いた言葉は浮かばないが、勘弁してもらおう。
「それは良かった。私もお誘いした甲斐があります。」
セバスチャンさんはそう言って、自分の紅茶を飲む。
「セバスチャンさんは、紅茶とかお菓子とかがお好きなんですか?」
「ええ。好きですよ。英国では人々から大いに愛されているものですし、懐かしい思い出もあります。」
セバスチャンさんは、瞳を閉じてふっと息を漏らした。イギリスから来たと言っていたし、祖国での楽しい思い出なんかもたくさんあるのかもしれない。イギリスのことなど全く知らない私だが、何となく興味が湧いた。私が質問をすると、セバスチャンさんは特に嫌がるそぶりもなく、イギリスについて、文化や歴史など、色々なことを教えてくれた。特に、歴史に関しては、まるで自分の目で見てきたかのようなイキイキとした語り口調で、これなら何時間でも聞いていられるとすら思えるほどだった。学生時代、歴史の授業はあんなにもつまらなくて、常に睡魔と闘っていたことが嘘のよう。気がつけば、一時間以上が経っていた。お茶はとっくに冷め、外はすっかり暗くなっていた。
「すみません、もうこんな時間になってしまいました。お疲れと分かっていたのに、申し訳ありません。ですが、私はとても楽しかったですよ。お詫びのお誘いなのに、私が楽しんでしまってはいけませんね。」
セバスチャンさんは、少し目じりを下げ、すまなさそうにしている。そんな、セバスチャンさんのお話があまりにも面白かったからといって、色々と尋ねてしまったのは私の方だ。
「いえ!私の方が、話を延ばしてしまって!私の方こそ、楽しくて勉強になりました。ありがとうございました。えっと、今日のご恩は忘れません。」
深々と頭を下げる私。その様子に、セバスチャンさんはクスリと笑みを漏らす。
「大袈裟ですよ。では、ご自宅まで送ります。」
店を出る頃には、あんなに激しく降っていた雨はいつの間にか止んでおり、雲ひとつない月夜になっていた。