第2章 第2話
「さて、何がお好きですか?」
セバスチャンさんは文句のつけようがない美しく整った笑顔をこちらに向けてくる。手元には、芸術的なレイアウトのメニュー。ざっと読んでみたが、恥ずかしいことに、カモミールティーとかミルクティーだとかの、代表的なものしか分からない。待たせてはいけないと思い、とりあえず知っているローズマリーティーを注文する。これなら、メニューの中でもそれほど値の張らないものだし。聞いたことも無いような長い名前の紅茶は、紅茶一杯とは思えないような値段がしたのを見て、本当に軽い眩暈がした。
「クス。別に、値段のことなど気にしていただかなくて構いませんよ。誘ったのは私なのですから。」
「そういうわけでは!」
こういうのは、相手に悟られると気まずい。
「困らせてしまいましたね。」
そう言ってふっと微笑むセバスチャンさん。そう言えば、セバスチャンさんは笑うことが多いけれど、その瞳の奥で何を考えているのか、少なくとも私にはほとんど分からない。いくら初対面でも、なんとなく、相手が何を考えているのか、ぼんやりとは伝わってくるものがある。それが、この目の前の相手、セバスチャンさんからはほとんど何も感じられない。不思議な存在に思えて仕方ない。
「ですが、ローズマリーティーは、香りに比べて飲みやすいので、慣れない方にもオススメですよ。」
向かい合わせに座る私を見て、セバスチャンさんはニコリと微笑む。私が紅茶などといったお洒落な飲み物に疎いということも、見抜いていたのだろう。
「えっと、はい。」
「ローズマリーティーには、心身の疲労を癒す効果があるとも言われています。今の結衣さんにはピッタリかもしれませんね。」
「……。」
ふと、渚のことを思い出す。少しの間忘れていたことが、頭の中に戻って来ては、それが重石(おもし)になるような感覚を覚える。
「随分お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
紅茶色の双眼が、私を覗き込む。
「―――はい。今日は、その、……私の同僚の、お葬式だったんです。」
「……そうですか。」