第2章 第2話
「おや、ご気分を悪くされましたか?」
セバスチャン・ミカエリスさんは、柔らかな声色で話しかけてくる。見えていないので分からないが、こちらを窺うような視線を投げかけてきているような気もする。
「いえ、別に。」
別に、怒ってはいない。ただ、自分の思い上がりっぷりが恥ずかしくなっただけ。
「そうですか。しかし私も、初対面の女性をからかうなど、大人気(おとなげ)なかったですね。」
すまなさそうな声色が私に向けられる。そんな声を出されると、私が思い上がっていたことがますます恥ずかしくなってしまう。
「では、お詫びの印に、どうでしょう。この後、少し時間はありますか?」
「へ!?」
突然の申し出に、またもや頭がついていかない。時間があるか無いかと問われれば、確実にある。でも、初対面の男の人にこれ以上ついていってよいのだろうか。それを言うなら、車に乗った時点でアウトな気もするのだが。
「ここから十五分ほど車を走らせた辺りに、新しいカフェができたのはご存知ですか?」
「……?知りません。」
セバスチャン・ミカエリスさんの運転する車が、やっと駅を出て一つ目の信号にさしかかる。相変わらず、まだ道路は混雑している。
「つい一ヵ月ほど前にオープンしたカフェで、色々な種類の紅茶が選べるお店です。お菓子も、カフェオリジナルのクッキーが人気だそうですよ。」
正直、紅茶などと言われても、庶民の私はせいぜいペットボトルに入った清涼飲料水とか、ティーバックで淹れた紅茶ぐらいしか思い浮かばない。どうせからかわれただけなら、少しセバスチャン・ミカエリスさんと過ごすのも悪くないかもしれない、とも思う。今、急いで家に帰れたとしても、何となく残った胸のつかえが、胸の中でとぐろを巻くような気がして仕方がないのだ。それよりは、誰かと過ごすことで、その胸のつかえをしばらく感じさせないようにする方が得策かもしれない。