第2章 第2話
ようやく車は、ロータリーから出る。出ても、駅に入ろうとする車がいっぱいで、あまり進みそうもない。ついでに、会話が途切れて、またもや沈黙がしばらく続く。
「ご自宅は、どの辺りですか?」
「うぇ?!」
突然話しかけられて、素っ頓狂な声をあげる。運転席の辺りで、ほんの僅かに鼻で笑うような音が聞こえたような気がする。
「えーっと。ここから真っ直ぐに行ったところに、コンビニがあるの、ご存知ですか?」
「はい。」
「そこの角を右に曲がって……」
「嗚呼、ほんの近くですね。私の部屋も、近くですよ。」
「へ、へぇ~、そうなんですか……。」
部屋、ということは、マンションかどこかに住んでいるのだろうか。イギリスから来たと言っている辺り、一軒家ではないのだろうが、こんなに生活感の無い人の住む部屋とはどんなものだろうか。全く想像がつかない。見たいような、見たくないような、そんなことを思う。
「来てみますか?」
「え、はい……って、ん!?」
見たいだの見たくないだのと考えていたせいで、ついうっかり、ハイなんて返事をしてしまった。
「いやいやいや、それは流石に!初対面の男性のご自宅にお邪魔するとかいうことは、それは流石に、そう、申し訳ないというか、ですね!」
私は慌てて否定する。流石に、ほぼ初対面の男性の家にお邪魔するのは、こんな私でも問題な気がする。こんなに眉目秀麗な好青年なのだ。『そういうお相手』はより取り見取り状態だろうから、襲われることは無いにしても、それってきっと良いことではない。
「冗談ですよ。」
セバスチャンさんは、私の動揺ごとさらりと受け流した。刹那、妙な恥ずかしさが私を支配する。そっか。私、からかわれたんだね。そりゃあ、こんなに見た目がパーフェクトなお人なのだ。男女問わず人がやってくるだろうから、きっと人をあしらうことも慣れているのだろう。それに、こんな容姿端麗な男の人を目の前にして、ほんのわずかでも自惚れていた自分がとんでもなく恥ずかしい。そう思うと、何だか同じ人間として切ないものが込み上げてきて、気がつくと私は自分の足元を見つめていた。顔なんてしばらく上げてはいけないような気さえした。