第2章 第2話
「いえ、結婚式場で、お友達や同僚の方々が、呼んでいたのを聞いて、覚えてしまったのですよ。」
ああ、なるほど、と思うと同時に、今は忘れていた渚のことを思い出して、わずかに胸のつかえが重くなる。
「そういえば、私の方が自己紹介がまだでしたね。私の名前は、セバスチャン・ミカエリスと申します。」
「セバ、ス、チャン・ミカ、エリス――――?」
日本人離れした顔立ちだと思ってはいたが、やはり西洋系の人なのだな、と名前を聞いて納得する。
「嗚呼、日本では珍しい名前ですね。私は、ここ数年間にわたって、英国から日本にやって来て滞在している者です。」
イギリスの人がどうしてわざわざ日本にやって来ているのか?
「仕事ですよ。」
――――!心を読まれたかのようなタイミングで降ってきた返事に、またも心臓が跳ねた。
「へ、へぇ~。お仕事ですか……。」
何の仕事なのだろう。こうして横顔を見ているだけでも、相当整った顔立ちをしている。背だってすらりと高い。芸能関係の仕事だろうか。
「クス。そんなに見つめられては私だって照れますよ。」
「あっ、あぅ、ごめんなさい!」
慌てて目を逸らしたが、かく言うセバスチャン・ミカエリスさん?は、全く照れたようなそぶりを見せない。これだけ容姿端麗だと、こうやって見られることにも慣れるのだろうか。私はよく言って十人並み、またはそれ以下の容姿なので、そんな人たちの気心など全く知れない。
「いえ、何のお仕事をされているのかな、って……。あっ、でも、初対面の人にこんなこと訊くのは失礼ですよね。ごめんなさい。」
「別に失礼でもありませんよ。私は気にしません。今は、翻訳家の仕事をしています。」
「えっと、ドラマとか映画とかの、ですか?」
「いいえ。私は本の方ですよ。依頼を受けて、書籍の翻訳をしています。」
「へー、だから日本語もお上手で、日本に滞在もしているわけですね。」
「ええ。」
正直、翻訳家がどうしてわざわざ日本に来なければならなかったのかは、よく分からなかったが、翻訳家がどのような仕事なのか、言葉を別の言葉に直すとかいった最低のことしか知らない私は、これ以上どう話を繋げて良いか分からない。