第2章 第2話
「すみません。この雨の影響で、いつもよりもさらに混んでしまっているようです。」
男の人は、申し訳なさそうに口を開く。私は、車に乗せてもらっている身だし、親切にされた手前、何も言えないし、今日は特に急いでもいない。
「いえ。もともと、この時間帯は、ここ、混みますから。それに、ありがとうございます、送っていただいて。」
「濡れはしませんが、歩くよりも時間がかかりますね。」
「いえ、そんな。」
そう言ったっきり、しばらく車内は沈黙に支配された。ひたすら、雨の音やエンジン音が聞こえるだけだ。何だか空気が重い気がするが、元々、私とこの男の人は知り合いというわけではない。話すネタだって無い。……、そういえば、この人は何者なのだろうか。窓の外へと流していた自分の視線を、ふと運転席へと持ってくる。
「どうしましたか、佐藤結衣さん。」
――――――!心臓が跳ねた。どうして、この人は私の名前を知っているのだろうか。