第2章 第2話
雷鳴が近い。最寄駅に着いた頃には、酷い土砂降りになっていた。空を見上げると、どす黒い雨雲が、まだまだ雨を降らせるぞと主張しているかの如く空にのさばっている。いつもなら、喫茶店や駅近くのショッピングモールで適当に時間を潰すのだが、生憎、今日はそんな気分には全くなれない。一刻も早く家に帰りたい。別に、早く帰ったところで特にするべきこともしたいことも無い上に、帰ったところで一人なのだが。それでも、この胸の重さを抱えながら、これ以上外にいたくないのだ。足早に改札を降りて駅を出る。しかし、雨はまだ勢いを増して叩きつけるように降っている。自宅までは歩いて十分程度だが、この雨ではどうしようもない。仕方なく、タクシーを探す。しかし、普段なら最低2台は待機しているはずのタクシーは、今日に限って一台も見当たらない。この雨だ。タクシーは今日に限ってヘビーローテーション状態なのだろう。仕方なく、屋根付きの待ち合いベンチに力なく腰掛け、雷鳴轟かす暗雲を見上げる。この雨の影響か、気温がぐっと下がってきたのを感じる。屋根付きの待合所とはいえ、寒い。
「どうしよう……。」
俯いた私の呟きは、どの人の耳にも届くことなく、消えていった。
――――キキッ
私の前で、車が止まったような音がした。ラッキー!タクシーが戻ってきたんだ!そう思い、勢いよく顔を上げる。しかし、私の目に飛び込んできたのは、タクシー運転手のイメージからおおよそかけ離れた―――――
「お嬢さん、お困りですか?」
黒いスーツを身に纏った、長身の男だった。
この人、どこかで見たことが――――?テレビ?いや、違う。もっと最近、どこかで会ったような……。
「どうしました?」
目の前にいる男の人の声で、我に返る。もちろん、突然のことに驚き慌てる私。
「いや、あの、どこかで会ったかな~、なんて、はっ。」
私は何を口走っているのだろう。目の前の男の人は、そんな私の素っ頓狂な返答にさして驚く様子もなく。