第1章 君がいなくなる
成海はそう言い、そっぽを向いた。まあ当たり前だろう、自分は成海を誘拐した。誘拐というか、…まぁ誘拐、なんだろう。
成海は明後日引っ越す。そして数時間前が最初で最後のデートとなった、筈だった。それなのに成海はまだ自分の目の前にいる。なぜなら、帰らなければならない時間の数十分前に彼に出した飲み物に睡眠薬を入れ、眠った彼を縛り付けておいたからだ。
もしかすれば、これが自分の最初で最期の我侭だろう。だが彼はその我侭を許してはくれなかった。目の前でイライラしている彼の頭を撫でようもんなら、鋭い目で睨まれ、手を振り払われるだろう。当たり前だ。
自分は成海に迷惑をかけている、この上ない程に。さっきから成海のケータイが鳴っているのは、きっと母親からだろう。