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あなたの好きをまだ知らない。

第5章 夏草


「私も、この人生で随分と嫌なことがあったわ。
でも、戦うのは自分一人よ。
忘れないでね。」

そう言って早奈英さんは静かに部屋を出ていった。

「冴杜、お待たせ。」

「あ、あぁ、」

「どうかした?」

「いや、美寿子のお母さんってやっぱり面白いよな。」

「えっ!!もしかしてまたクローゼットに隠れてた!?」

そんなにしょっちゅうなのかあの人…

「まぁいいや、はい、お茶。」

「ありがと。」

それから、俺は家の事を話せずに、ただ美寿子と手を繋ぎながら話をしていた。

「ねぇ、冴杜?」

「ん?なに?」

「…明日さ…海…行きませんか?」

「海かぁ…構わないけど、どうしてそんなに改まってんだ?」

「…二人で行きたかったけど、美乃里ちゃんがね、冴杜と丸山君も誘って行ければって…」

「何で一弥なんだ?」

「…多分、好きなんだよ…」

「一弥を?」

「うん。この前、バスケ組の打ち上げで言われたの、一弥君が好きなんだって…」

こんな風な込み合った事情は初めてで、俺は何も言えなかった。

「そういやあいつも何か指塚が何とかって言ってたなぁ…」

「それって…両想いなんじゃない?」

「…だな。」

その後少し間が空き、笑った。

「じゃあ、一弥には俺から誘っとくわ。」

「分かった、くっつくといいね、二人共。」

こんな風に誰かの幸せを願うようになったのも、美寿子と付き合えたから。
単純にそう思う。
それから俺は美寿子に親の事を話さずに家に帰った。

家に帰ると、父の柊芳樹が座っていた。

「冴杜、帰ってきて直ぐで悪いが、こっちに来なさい。」

「…」

父はとても尊大な人で、俺の尊敬できる人だった。
あの事件の後父は逃げてないと思っていた。
だが、もぬけの殻になっているのを見て、完全に信頼を無くした。

「お前、母さんに酷い事を言ったそうじゃないか。」

「…こいつは俺の母さんじゃねぇよ。
母さんなら何年も前に死んだだろ。」

そう、今柊の姓を名乗っている、柊美南は俺と血の繋がりの無い継母なのだ。

「…お前は…前はもっと可愛いげがあったじゃないか。」

「あんたら…何の謝罪もないのか?俺はいつまでもお人好しじゃないんだよ、もう高校2年生だ。2年経ってんだよ、」
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