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あなたの好きをまだ知らない。

第5章 夏草


俺の家から美寿子の家までは町一つ分くらいだから、電車を使うまでも無かったが、今日は暑かった。

「財布はあるし、電車で行くか…」

電車に乗るといつも空いている車内が何故か混んでいた。

「そうか…今日は花火大会か…」

小声で誰にも聞こえないように呟いた。
次の駅で降り、徒歩5分の住宅街にやって来た。

「あ、冴杜!おはよ!!」

美寿子は家から出て俺を待っていた。

「おはよう。全く、外暑いんだし、出てなくても…」

「もー、私は早く冴杜に会いたかったから外にいたのに…冴杜は会いたくなかったの?」

「んな訳無いだろ…俺だって…会いたかったさ。」

そう言うのが恥ずかしくて、違う方向を向いてしまった。

「ふふ、良かった。
まぁ上がって、私の部屋分かるよね?」

「あぁ、先に行ってる。」

お邪魔すると、お母さんはいないのか出てこず、俺は美寿子の部屋に入った。

「いらっしゃい、冴杜君。」

「みみみっ、美寿子のお母さん!?」

「えぇ、出掛けたふりをして、クローゼットに隠れていたんです。」

「な、何してんですか…」

「それより、美寿子とはどこまで?」

寝耳に水な話題に、少し驚いた。

「まだ手しか繋いでません。」

「あら、珍しいわね、てっきりキスぐらいしてるものかと。」

「…出来ませんよ…美寿子を傷つけそうで…」

「…美寿子から冴杜君の話は聞いたわ。あの子、あなたの話をしている間、泣きながら伝えてくるものだから、本当にあなたの事を好きなのよ。」

「…じゃあ、もう…」

「えぇ、でもね、私は何とも思わないわ。」

一瞬、体が硬直した後に、体の芯が痺れるような感じがした。

「あなたの過去に口出しする訳じゃないけど、
でも、皆そういう苦難があるのよ、必ず。
これは人生経験から言ってる話だけど、苦難は誰にでもある。ただ、あなたの苦難が他人より重かっただけ。
だから、私は他人みたいに同情しないわ。」

「…ありがとうございます。
あなたみたいな大人は初めて見ました。」

誰とも分け隔てなく、尚且つ無駄な感情を持ち合わせていない。
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